アライヒシモンヨコバイHishimonus araiiとヒシモンヨコバイH. sellatus
ヨコバイの仲間は日本に450種以上いるそうです。よく似た種もいるし、一般向けの文献も少なく、同定するのは結構ハードルの高い仕業だと感じます。そして翅に模様があるものは、種が分かるんじゃないか、と思うけど、マイナー昆虫の罠、ぬか喜びに陥ります。交尾器を観察しないと分かりませんってのが多い。
さて、ライトトラップをすると、ヨコバイ類も結構集まり、模様のあるものもチラホラ。そんな中、個人的にはまあまあ見かける、翅に菱形もようのある個体。先日も採れました。図鑑にも出てきます。
酷似する2種がいるようです。それが、アライヒシモンヨコバイとヒシモンヨコバイ。
「九州でよく見られるウンカ・ヨコバイ・キジラミ類図鑑」でも「東京で見られるヨコバイ 葉をめくるヨコバイ観察」でもアライヒシモンとヒシモンがよく似ていて、同定に注意を促しています。ただ残念なことに、九州ではアライヒシモンの標本写真が、東京ではヒシモンヨコバイ類の一種としての外観写真があるだけ。同定形質の写真等がないし、「交尾器での確認が必要」、などの一文もないのが残念。
決してまれな種ではないと思うので、調べてみました。
日本昆虫目録第4巻から、記載論文を探してみると、見つかりました。そして、無料公開されています。Okada(1978)がアライシヒモンヨコバイの記載論文。論文はアライヒシモンの記載ですが、ヒシモンの図も記載されていて、大変ありがたかったです。
では、先日捕獲したヒシモンヨコバイsp.について見ていくと・・・、アライヒシモンヨコバイと同定しました。
オスの交尾器は先端が鉤状になっています。ヒシモンはこの鉤がないので、これはアライヒシモンということになります。
図版ではメスの腹部第7節腹板の形状がでも同定できそうに描いてあります。しかし実際に観察すると、これでは難しいかもしれません(左)。この個体はヒシモンヨコバイの図とそっくりでした。KOH処理したのが右。ここ(矢印)がくっついているので、これもアライヒシモンとなります。
よって、今回ライトトラップで捕まえた個体は、いずれもアライヒシモンヨコバイと同定されました。混獲されることもあるらしいので、複数個体とっておくべきですね。
交尾器の観察が必要なので、菱形模様のあるヨコバイが採れたら、乾燥する前に交尾器を引き出しておくといいですね。僕は乾燥させてしまったので、KOH処理をしました。
アライヒシモンの記載論文は以下。
ここまで来てなんですが、アライヒシモンヨコバイ、Hishimonus araiiは、Hishimonus hamatusのシノニムとされたようです。和名はこのままなんでしょうが。
2019年に中国でヒシモンヨコバイ属の新種記載がされ、同時にこの属がまとめられているようです。カオスです。こっちの文献は写真が載っています。
Lan Du and Wu Dai (2019) High Species Diversity of the Leafhopper Genus Hishimonus Ishihara (Hemiptera: Cicadellidae: Deltocephalinae) from China, with Description of Ten New Species.
これだけカオス状態だと、先の文献2つ(九州と東京)で意図的に詳細を述べなかったのかな?なんて思ったりもします。